「帰る前にトイレに行こうと思ったの。通りかかりに受け付けの後ろのクロークから変な男が出てくるのに出くわした。名札なし、サイズのあってない制服、それから靴。だから呼び止めたの。そしたら手刀でいきなりガツンとやられた」

「変な男?」

 桑谷さんはぶっきらぼうに聞き返す。その次に来る言葉は判ってる。私は一人で頷いた。どうしてそんなことに首を突っ込むんだ、に決まってる─────────

「どうして首を突っ込むんだ!?放置しとけよ」

 ほらね。

 私はまだ頭をさすりながら、じろりと彼を睨みつけた。

「私はここで倒れていたの?どうしてあなたが見つけてくれたの?」

 彼はムスッとしたままの声で淡々と説明した。

「もう帰ろうと言いに戻った。そしたら会場を出て行く君の背中をバルコニーから見つけたから追いかけたんだ。で、廊下に出るとすでに君の姿がない。どこに消えた?と思って歩いていたら、受付のテーブルのうしろから足が出ているのに気がついた。まさかと思って覗き込んだら・・・」

「私だった。あ、そう。それはどうも」

 最後を引き取ってそう言ったあと、私はざっと周囲を見渡す。それから痛みに気をつけてゆっくりと立ち上がり、壁に手をはわせてクロークの電気を指で押した。

 パッとついた明り。その眩しさに目を細めて、奥を見る。彼が隣であ、と声を出した。

 雑然と色んなものがあるクロークの一番奥で、担当者と見られるホテルの従業員が膝を抱いてぐったりと壁にもたれている。

「・・・発見」

 私が呟く。