「あ。綾川さんだ〜。今日も主任探してるの?さっきファブリックコーナーで見かけたよ」

「いつもすみせん。ありがとうございます」


私まで頻繁に店舗に降りてきて金子を探すものだから、販売部の社員たちはすぐにこうして彼の居所を教えてくれるようになった。


「大変だね、イタチごっこも」


という労いの言葉に疲れ切った笑顔を返して、早々にファブリックコーナーへ向かう。


金子はオーダーメイドカーテンの一番高級な生地のあたりで突っ立っていた。


「主任、ちょっといいですか」


声をかけると、彼が振り向く。
その顔はなんだか考え事をしているみたいな表情を浮かべていた。


「お願いですから席を外す時は店舗のどこに行くのか伝えてからにして下さい。探す時間がもったいないので」

「あのさ、綾川さん」

「はい?」


私の忠告は完全スルーで、金子は悩ましげに手触りのいい淡いクリーム色のカーテンを指でなぞった。


「ここ1年のカーテンの売上、あんまり良くないじゃない?」

「……まぁ、そうですね」

「寝具の方は力入れてるみたいだから高級なのも売れてるよね。全体から見ても右肩上がりだし」

「もともとファブリックは寝具の売上が半分以上を占めてるんです。寝具のおかげでファブリック全体の売上自体は上がってますよ」


売れ行き好調な寝具類は、こまめに配置を変えたり羽毛の細かな種類を表記したり、ベッドコーナーと連携して打ち出しているのでお客様の食いつきも反応もいい。


カーテンに関しては、どうしても学生さんや独身の若い人が出来合いのポップな柄の安いものを買ってしまうので、高級なオーダーカーテンにまで手が届かない。


「じゃあさ、変えよっか」


金子が明るい口調で、ポンと手を叩いた。