それを聞いて、なるほどね、と納得した。
聞かれたらマズいことを口走ったかもしれないという危機感はあるわけだ。


確かに彼が何回も繰り返していた言葉があった。
この場で言ったら可哀相だし、恥ずかしいだろうから言わないでおくが。


「さぁね。もう覚えてない」

「やっぱり言ってたんだ」

「覚えてないって言ってるでしょーが」

「付き合ってください!」

「━━━━━は?」


ガバッと深々と頭を下げた今野が口にした言葉は、耳がおかしくなって聞き間違えたのかと思うほどだった。
私の冷めた瞳に気がついたらしい彼は、申し訳なさそうに縮こまる。


「急にすみません!順番は逆ですけど、でも俺……」

「あんたバカでしょ」

「え………………」


戸惑ったような顔をした今野に、人差し指を突きつけた。


「1回エッチしたからって付き合わなきゃいけない義務なんか無いのよ。私ってそんな面倒なこと言うような女に見える?責任取れとか騒ぐような女に見える?」

「いや、そうじゃなくて……」

「あいにく、あんたは年下だから対象外なの。だから安心して。ちゃんと好きな人と付き合いなさい」


切なげに眉を寄せた彼に「気を遣わせてゴメンね」と一言謝り、今度は引き止められないように駆け足でその場から立ち去った。







やめておけばよかった。
後輩と一晩過ごすなんて。


忘れようとしていたのに蘇ってきた。
今野が昨夜、何回も「好きだ」と繰り返し伝えてきたことを。


それは私に対しての言葉じゃないのは分かっていたから、ちゃんと流して聞いていたのに。


あの時感じた甘い感覚は早く忘れて、一刻も早く元の先輩と後輩の関係に戻らないと。



後戻りできなくなる前に。