「だって今まで俺の飲み相手だった綾川さんが主任のものになっちゃったわけですよ?さすがに彼氏持ち、しかも上司の彼女をサシ飲みに付き合わせるわけにはいかないじゃないですか。そうなると、彼氏もいなくて話を聞いてくれそうな先輩って数が限られてくるんですよ。ねぇ?」

「余り物の私が選ばれるってわけね」


遠まわしに言うくせに恐ろしく直接的な表現を使いこなす今野。
悪気はないんだろうけど、こういうところがヤツの残念なところだと思う。
だからこいつにも長年彼女が出来ないのだろう。


「あれは?大学の同級生だかなんだか、好きな子いるって言ってたじゃない。どうなったのよ」


数ヶ月前にヘタレ今野の恋愛相談を同じジンギスカンの店で聞いたけれど、その後進展があったかどうかは聞いていない。
むしろ積極的にガンガン合コンに参加しまくっていて、誠実さの欠片も感じられない。


私が切り出した話題は、どうやら今野の地雷だったらしい。
一瞬にして表情が曇った。


「告白する前に彼氏出来ちゃったらしいっす……」

「うわぁ、あんたってほんとバカね。普段のそのおちゃらけたパワーを、どうして恋愛に発揮できないかね〜」


ビールをグイッと喉に流し込みながら突っ込むと、彼はガクンとうなだれた。


「俺、見た目と中身ギャップあるんですよ。肉食に見えて草食なんです。主任と逆なんです」

「一番モテないタイプじゃん」

「うおおおお俺の繊細なハートにガツンと来ますっっ」


マトン肉の端々を口から飛ばしながら嘆く今野を、ヘタレ〜ヘタレ〜といじり倒してやった。


今野拓は、見た目はそう悪くない。
身長は見たところ170センチはゆうに超えているし、サラリーマンにしてはなんとなく長めの髪の毛もそれなりにセットしてるから清潔感もあるし、黙っていればモテなくはないと思うのだ。
調子に乗るから絶対に言わないが。