山崎樹理、28歳。
小坂インテリア勤務。
札幌本店及び本社販売促進部所属。
一応、販売員もやってます。


現在彼氏なし、募集もしていない。
とりあえず仕事が楽しいので、それで十分私の生活は成り立っている。






ジンギスカンまるだの本店。
カウンターしかない、宴会や女子会にはおよそ向かないそのお店で。


私は何故か、会社の後輩・今野拓と2人でマトン肉を堪能しているというわけなのだ。


「うめぇ〜!やっぱここのタレって絶品ですよね!」

「肉が美味しいからタレが引き立つんでしょ」

「どっちもうまいってことっすね!」


学生のようなノリで肉に食らいつく若さ炸裂のこの男。
私が冷たくあしらおうが突き放そうが、こいつはそれをものともせずに太陽みたいなピーカンの笑顔を向けてくる。


暑苦しい。
ご飯つぶが口のはしについてるし。
お前はひと昔前の漫画に出てくるガキンチョか!


この人は笑いはするものの怒ってるところを見たことがない。
喜怒哀楽という基本的な感情があったとして、今野には怒は無さそう。
と、いうか。
何も考えてなさそう。バカだから。


「あのさ。私だってヒマじゃないのよ。ことあるごとにジンギスカン誘うのやめてくれない?」


マトン肉は本当に美味しいし、言うことない。
だけど、一緒にいるのが今野っていうのが気に入らない。


私の親友の綾川結子が数年前に彼の教育係になって、毎日のように振り回されていたのを知っている。
社会人にあるまじき言葉遣いとか、空気の読めない発言とか、とんでもないマイペースっぷりとか。
傍から見ていても酷いものだった。


今は仕事では独り立ちしてかなり経っているし、社会人としての自覚も芽生えたのか真面目に業務に取り組んでいるようだけど。


この底抜けに明るい性格に、正直疲れる。