「今野がタイミングよく来てくれて良かったよ。お前に頼みがある」
「た、頼みっすか?」
「もちろん、タダでとは言わない。ジンギスカン奢る」
どう見ても頼みというよりも命令に近い金子の申し出に、今野くんは負けじと言い返した。
「主任、甘いですね。ジンギスカンなんていりません。それならカラオケ5回付き合って下さい」
「カ、カラオケ……」
たじろぐ金子を傍から眺めていて、極度の音痴だった彼を思い出してしまった。
悲惨な森山直太朗が記憶から引き出されてニヤついていたら、金子は仕方なさそうにうなずいていた。
「分かった、3回付き合う。その代わりお前から酒田部長に言ってくれないか?彼女に会ったことがある、って。誰かさんのせいで嘘だと思われてるみたいだから」
「………………お、俺のせいっすね」
「そういうこと」
そうなのだ。
今思えば、すべての元凶は今野くんにあるのだ。
横から茶々を入れて、なんでもかんでも誰彼かまわず得た情報をペラペラとしゃべるから……。
「分かりました。お安い御用です」
エッヘンと心なしかドヤ顔をした彼は、チラリと私の方に視線を向けて意味ありげに微笑んだ。
「それにしても、さっきの主任とイチャついてる綾川さんのデレ顔は見ものでしたね!真のツンデレを見た気がしました!本当にごちそうさまでしたっ」
その後、ものすごい勢いで私にどつかれたのは言うまでもない。



