「そんなのいきなり言われても困るからっ。とにかくいったん落ち着いて、仕事に戻るわよ!」
慌てて焦りまくっているのはどう考えても私の方なのだけれど、混乱している頭でその場しのぎのことを言い放ち、金子の腕を振りほどいた。
彼はというと「はいはい」なんて言いながら、私の反応が面白かったらしく笑いをこらえていた。
2人揃って倉庫部屋を出ようとしたら、それよりも先に部屋の扉がゆっくりと開くのが見えて足を止める。
驚いて扉の向こうから現れた人物に目を凝らしていたら、見慣れたニヤけ顔の若い男が現れた。
「こ、こ、今野くん……」
思わず即座に名前を呼ぶと、そもそもの事の発端を作り出した張本人である今野拓がおちゃらけた口調で小躍りし始めた。
「見ぃ〜ちゃった、聞いちゃった〜」
すっかり悪魔と化した今野くんが、私と金子の前をウロウロする。
「まさかまさか、2人が付き合ってるなんて〜。しかもこんなところでイチャついて、さらにはプロポーズまで〜」
「ど、どこから聞いてたのよ!」
今までの人生でこれほどまでに恥ずかしい思いに駆られたことなんて無いじゃなかろうか。
顔から火が出るかと思うくらいだった。
ところが。
肝心の金子は、なぜかそれほど動揺していない。
むしろ落ち着き払った様子で、なにやらいいことを思いついたようだ。
「今野」
「はい、主任」
金子に呼ばれて返事をした今野くん。
すると、彼の腕を掴んだ金子が今野くんを両腕で閉じ込めるようにしてドンッと壁際に追い詰め、少し背の低い彼を見下ろした。
世間でいう壁ドンを、男同士がしている。
ある意味貴重なシーンを目の前にして、密かにほんの少しドキドキした。



