「なんか主任、フェア始まってからめちゃくちゃキレッキレですよね〜」
仕方なくやることにしたらしい今野くんが、さっきまで私が使っていたパソコンからデータをUSBに移動させながらボヤく。
「キレッキレ?」
「感じません?今まではホンワカしてたけど、急に統率力高めてきたっつーか、カリスマ性出してきたっつーか」
「そ、そうかな」
「彼女でも出来たんですかねぇ」
「わぁっ」
動揺してデスクに置いていたペットボトルのお茶を床にぶちまけてしまった。
「何やってんですか〜、綾川さん」
ケタケタ笑う今野くんを無視して、慌てて雑巾でいそいそと床を拭き上げる。
この忙しい時に余計な仕事を増やしてしまった。
悔しがる私の耳に、コソッと小声で今野くんが耳打ちしてきた。
「知ってます?酒田部長、諦めてないらしいですよ」
「……なにを?」
「知り合いの娘さんを主任に紹介してお見合いさせるってやつ。あの様子じゃ主任、部長に相当気に入られてますね」
今野拓、恨んでやる。
こんな時にそんないらない情報を流してくるんじゃない!
おかげで集中力が散漫になった。



