ようやく作り終えて、仮のものを印刷しているところに金子が店舗から戻ってきた。
事務所に入ってくるなり、私のデスクへとずんずん向かってくる。


昨日の夜は、私が彼のマンションに泊まったのだけれど。
まだ生理が終わらぬままの私をベッドの中で抱きしめながら、「疲れてるからこそ会いたくなる」と優しく笑ってくれた彼は、今現在どこにもいない。


「綾川さん」

「は、はい」


話しかけられて、ギクッと肩を震わせて返事をすると、彼はなんとなく嫌な予感のする微笑みを浮かべた。


「ファブリックの売上、良くないんだよね」

「……はい、存じ上げております」

「昨日までの売上の統計とってみたの。秋冬モノの北欧柄の布製品がわりと売れてるみたいなんだよね。だから、ディスプレイの差し替えすることにしたから」


え、え、え。
それって、もしかして。


「申し訳ないんだけど、ポップの作り直ししてもらえないかな」


一切申し訳ないなんて思ってないだろうというような笑顔でそう言い、私の肩を軽く叩いた。


簡単に言ってるけど、作り直しってかなり大変。
今マッハで終わらせた目玉商品のポップだって、なんて言われるか。


「あ、これ専務からの指示のやつね」


私の手にある印刷したばかりの仮のそれを見て、金子は眉を寄せた。


「うーん、秋だからってオレンジとか茶色使いすぎてない?なんか暗いから、背景は思い切って黄色にしよっか」

「ええええ、一発オッケーください……」

「それじゃ今野、頼むよ」

「ぎゃあ!俺っすか!?」

「だって手空いてるでしょ。綾川さんにはファブリックの方やってもらうし」


あっさり言いのけた金子は、確かに何もせずに睡眠時間を嘆くだけの男・今野拓にニッコリ笑いかけ、「じゃあお願いね」と自分のデスクへと戻っていった。