「へー、お前でも照れることあるんだ。」

「別に照れてるつもりはありませんけど。真剣に宿題をやってるだけだし。」

兄はようやくゆっくりと部屋から出ていった。

ドアが閉められようとしたその時、

「マサキはやめとけよ。」

と兄は小さな声で言った。

マサキ?

ドキン。

その名前を聞いただけで心臓が飛び跳ねている自分がいた。

思わず、兄のいるドアの方に体を向ける。

兄はドアの隙間の向こうに少し笑って立っていた。

「ど、どうしてよ。」

思わず食いついた。言いながら、そんなムキになってる自分に少し驚く。

「あいつ、中学んときからマジで付き合ってる子がいるんだ。」

自分がだるまおとしで、思いっきり胸の辺りをカチン!と抜き落とされたような衝撃だった。

ゆっくりと前を向く。

「まぁ、当たって砕けろでいってみてもいいけど。」

兄は続けた。

・・・な、なんなのよ。

「お前って、すごいわかりやすいぞ。マサキの前での動揺っぷり。マサキも今日のユイカ変だよなって困ってたし。」

え!本当に??!

マサキが、そんなに困るほど私変だった??

やばい、やばいよ!

顔がだんだん熱くなる。これからも顔合わすこと多いのに。

後悔先に立たず。

「お前がマサキを好きになったんだとしたら、いい趣味してるとは思うけどな。」

何も言わず、ノートにえんぴつを走らせた。

「そうそう、まぁ、仮にだめもとでお前がマサキに行くとして、とっておきの情報を教えてやるよ。」

また手が止まる。そして、背後に神経を集中させた。

「彼女とは高校は違うらしいよ。」

そう言うと、扉は静かに閉まった。

その日からだったと思う。

私が真剣に勉強に取り組んで、マサキのいる高校を目指し始めたのは。