でもね。
一つだけ、わかったことがあるんだ。
「……ありがとう、矢畑」
「“千”でいい」
「……せ、千、ありがとね」
「ん」
顔を上げると、ふわりと柔らかく微笑んでいる千の表情が、視界に鮮やかに映った。
あぁ、これって、もしかして――。
「私のことも、“桃葉”でいいから」
ずっと憧れていた世界。
未知の世界が広がるこの感情に全てを委ねたまま、不安と一緒に飛び込んだ。
「あ、あと、千の連絡先、教えて?」
君と会話をするだけで、君の隣に立つだけで、――この気持ちに気づいただけで。
声がか細くなって、瞳が潤んで、手が震えて。
それでも、君のそばにいて、言葉を交わして、ずっと近くで見ていたい。



