件名:大好きな君へ




俺は渋々ベンチに下がった。


俺の代わりに、他の奴が試合に出る。



……悔しい。


練習試合だからって、公式戦じゃねぇからって、誰もが本気だった。


こんな怪我で交代させられるとは、思っていなかった。



手首が赤く腫れていく。


痛みが広がっていく。


けれど、試合に出たい気持ちが俺の心を埋め尽くしていて、痛みには気づけなかった。



『テーピングするね』



桃葉のその声で、正気に戻った。


桃葉は慣れた手つきで、俺の手首をテーピングする。


触れる桃葉の手は、とても優しいものだった。



『バスケ、本当に好きなんだね』



桃葉はテープを巻きながらポツリと呟く。


外から聞こえてくる雨音とドリブルの音が遠ざかって、桃葉の透明感溢れる声だけがクリアに聞こえた。