なぜか、唇が震えた。


この小説の主人公も、恋をしているんだ。


私と同じ、初恋を。



たった1ページしか読んでいないのに、感情移入しちゃった。


甘くなくても、幸せばかりじゃなくても、忘れられない。


それこそが恋だと、私に伝えているようだった。



この恋の苦さに泣いても、恋することの可能性を見て見ぬ振りしてはいけない。


恋しなければよかったって思っても、この恋を消すことはできないんだ。



「……いつか、この本を最初から最後まで読みたいな」



漫画はよく読むけど、小説はあまり読まない。


だけど、『この恋、賞味期限切れ』だけは読まなくちゃいけないと、私の中の何かが言っていた。



私は本を元あった場所に戻し、図書室をあとにした。


廊下を歩く私は、ふと窓の外を見上げた。


窓の向こう側に広がる空は、嫌な予感を感じさせるような厚く暗い雲に覆われていた。