俺が見ていることなんて気づきもしない、桃葉の真っ直ぐな目。
どうして隠れて泣いているのか。
もしかして、ずっと我慢していたのか。
浮かんだ疑問のどれもが、きっと桃葉にとっては愚問だったと思う。
翌日、桃葉の目は腫れていた。
本人は『夜に映画を見て、感動しちゃって』とごまかしていた。
が、俺だけは本当の理由を知っていたから、赤くなった桃葉の目を見たら何とも言えぬ感情を抱いていた。
その日の部活の時間、桃葉は昨日三年生が引退したことを感じさせないくらい、真面目に仕事をしていた。
春に、桃葉が途中で部活を辞めるだろうと予想していた自分が、恥ずかしくなった。
『はい、タオル』
『ん、サンキュー』
『休憩後も頑張ってね』
碧にタオルを渡している桃葉の笑みが、痛々しかった。
不格好で脆い笑顔の裏でまだ泣いているように見えて、なぜか胸が締め付けられた。



