「未戸香?どうした??」
浜辺で一人、たそがれる未戸香のところに浮き輪を身につけた洸くんがやってきた。
洋服着てるのになぜ浮き輪?
突っ込みどろこ満載だけど今は聞く気になれない。
静かに隣に座ると砂で山を作り始めた。
「昔はこうやって砂山作って遊んでたな〜。未戸香はしなかったか?」
「どうだったかな。忘れちゃった。」
「俺らがまだ小学校低学年の頃、陽一の両親は離婚してなかったんだ。」
「それって…」
「わりぃ。聞くつもりじゃなかったんだけどたまたま。」
「…そう。」
重たい空気が流れる。
沈黙を破ったのは洸くんだった。
「この浜で遊んでたんだ。俺と陽一と、陽一の弟の太陽と。」
弟?
陽一くんに弟なんていたんだ。
初めて聞く話に耳を傾ける。
「あの日は少しだけ波が高くて、看板が立ってた。でもまだ低学年だから感じが読めなくてさ。遊泳禁止って書かれてたことも知らずに海に入ったんだ。
親は浜辺にいたし、何も考えずに泳いでた。しばらくして太陽がいないことに気づいた陽一が親を呼びに行ったんだ。
その数時間後、だいぶ離れた沖で水中に浮かんでる太陽を通りかかった漁船が見つけた。」
「うそ…。そんなことって…」
「俺の両親は2人は悪くないって言ったんだけど、陽一の母親は陽一を責め続けたんだよ。」
まだ8歳だった陽一くんの心にはあたしが思ってる以上に深いナイフが刺さってる。
その痛みを8年間も背負って生きてるなんて…
悪いのは陽一くんじゃないのに。
誰も悪くないはずなのに。
そう思うと苦しくて心が痛くなった。
