「小さい頃に両親が離婚して父親に引き取られたんだ。」
「お母さんは?お母さんの方に行けなかったの?」
「“行けなかった”と言うよりは“行くことができなかった”と言った方が正しいかな。」
『母は僕を殺そうとしたんだ。』と聞いたときは驚きのあまり言葉が出なかった。
お母さんが自分の子供を殺そうとするなんて…。
「り、理由があったんだよね?」
「情緒不安定になって病んでたんだ。そうなった原因は僕にあるんだけどね。」
「え…?」
と、ダイニングにいた先輩達があたし達を呼ぶ。
「行こう。」
「ま、待って…待って!」
バルコニーから出ようとする陽一くんの腕を掴む。
“原因は僕にある”ってなに?
殺されるようなことをしたってこと?
わかんない、陽一くんの言ってること全然わかんないよ。
「未戸香。この世界の人全員が幸せな日々を送れるわけじゃないんだよ。」
「なにそれ…どう意味?」
何も答えないまま背を向ける。
待って。
最後まで話、聞いてない。
