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「.......あれからもう、十年か」



俺も随分年を取った。

今ではもうあの頃の廃れきった自分の面影はまるで無い。
随分と円くなった。


あれから十年。
あの時は想像し得なかった"盗賊"の形。

正義のための盗賊。
あの時彼女が口にした良い盗賊。
それが今、現実となって此処に在る。








ッ。




「団長。
いつまでもそんなところに居ては身体が冷えるわ。
いい加減中へ入ったらどう?」



まさか俺がそんな正義の名の元の盗賊を率いることになっているなんて。
あの頃には、きっと神でさえも想像出来なかっただろう。






「あぁ」



だがこれは確かに現実。
夢でも幻でも、そして偽物でもない。

過去へと浸る俺からは何か哀愁に似たものが滲み出ていたのだろう。
とうとう見兼ねた様子で声を掛けてくる仲間にフッと我に帰る。


どのくらいこの場所に居ただろう。
夜はすっかり更け込み、そろそろ遠くの方が明るくなろうとしていた。
身体も冷えきっていた。





「.......今は過去など思い返している暇はない、か」



タッ。
その場から立ち上がる。

今は前に在ることだけを見詰めねばならない時だ。
......俺を人生の底辺から救い上げてくれた彼女の為にも。そう、アスラの為にも。

過去を思い返すのはその後でも構わない。





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