「………神社?」


もうずっとそこには誰もいないように、でも、静かに、確かにそこにある。


鳥居には、かすかに読める字で『夜霧神社』と記されていた。




「にゃあ」



階段を登り、鳥居をくぐった先に、猫はいた。



私も鳥居をくぐると、そこには、さっきの子猫と、親猫がいた。



「……お母さん、いたんだね」

親猫は、小さな子猫をあやすようにその毛を舐めていた。




二匹から目を離し、ぐるりと神社を見渡すと。


「あ…」


神社を護るように鎮座する狛犬に、ラクガキがされていた。


「なんでこんな…」


私はポケットからハンカチを取り出すと、狛犬に書かれたラクガキを消し始める。





随分昔に書かれたものなのか、拭ってもなかなかとれない。


しばらく拭き続け、やっととれたと思ったとき、猫の鳴き声が後ろから聞こえた。




振り返ると、子猫が親猫とともに鳥居をくぐり、階段の下にいた。


「…じゃあねって、言ってるみたい」



少しだけ笑えてしまって、クスクスとしながら手を振る。


それを見ると、猫達は何処かに去ってしまった。



………本当に、私のしてることがわかるみたい。



…………………不思議な猫。


私もお参りをして、早めに帰ろう。





再び神社の方に振り向き進む。


賽銭箱に入れるお金は持ってきていないけれど、鈴を鳴らして手を合わせる。




特にお願いごとなんてないけれど。



……強いて言うなら。







「…生きたい」



小さく呟いたその声は、鈴の音ほどに響く事は無かった。



と、そのとき。


「………ん?」



なにか、足に当たってることに気づいた。




………というか、しがみついてる?


恐る恐る下を見下ろすと。




「………」



小さな子供が2人、左右それぞれ私の足に抱きついていた。


「えっ」





私の声に気がついた2人は、クイッと顔を上げた。




そっくりの顔と、真ん丸の瞳を輝かせて。


「おんなのこ!」

「にんげん!」


と、それぞれ口にしていた。




「えっと、…君たちは?」


戸惑いつつも声をかける。


「ミケ!」

「タマ!」



どうやら名前のようだけれど。



私はしがみつく2人をやんわりと離し、しゃがみこんで目線を合わせる。


「えっと、ミケくん、タマくん?」



くんといっても、なんとなくそう見えるだけで性別はわからなかったけれど。



「そう!」

「うん!」



元気に頷く2人は、嬉しそうに今度は私の腕にしがみついた。



そして、間近で見てあることに気がついた。


耳。


2人の頭には犬のような耳が生えていた。


小さい、たった耳はミケくん。

少し大きい垂れた耳のほうはタマくん。



猫のような名前とは真逆に、その耳は犬のようだった。


そして2人は、着物を着ていた。


このご時世、子供に着物を着せる親なんているんだなと感心していたけれど。



ここが神社だということに気がつき、もしかしたらここの子供なのかもと思った。