声を殺して泣いていると、部屋をノックする音が聞こえた。





急いで涙を拭い、深呼吸する。



少し泣いただけで、心臓はひたすらに速くなり続ける。





「…どうぞ」



もう一度深呼吸してから声をかけた。




すると、かすかに微笑みを浮かべた母が入ってきた。


目が真っ赤にはれている。


私のために泣いたのだと思うと、胸が痛い。


「…………愛由里、あのね」


「…うん?」



一つ深呼吸すると、母は優しく微笑んで、ベッドの端に腰掛けた。


「先生がね、一ヶ月……しかないのだから、好きなことをしなさいって」



一ヶ月、そういった母の目にはまた涙が浮かぶ。


「行きたいとこに行って、やりたいことをやって、愛由里の好きに生きなさい」



「私の…?」



母は、もう耐えられなくなったのか、ぽつりぽつりと涙を落とし、私を抱き寄せた。



「ごめんね、ごめんね愛由里。私が…もっとちゃんと産んであげられたら良かったのに。…………………あなたの母親が、私じゃなきゃ…もっとちゃんとした母親だったら良かったのに」






ちがう。




ちがうよおかあさん。



私。



「お母さん、私ね………」




「お母さんの子供に生まれて、良かった」

「っ」



「お母さん、ありがとう……大好きよ」



そういうと、母は子供みたいに泣いた。私を抱きしめて、泣いた。




私も、静かに涙を流した。




お母さん。






大好き






ありがとう。