小さな声が、銀色の彼の耳に届いた。
声のした方を見ると、そこにはまだあどけない、小さな少女がぬいぐるみを抱いて立っていた。
「………きつねさん、さみしいの?」
少女は彼によたよたと頼りない足取りで近寄っていく。
そして銀色の彼が腰掛ける場所手前で躓いてしまったのを、銀色の彼が片手で受け止めた。
少女を立たせながら、彼は問いかける。
「……どうしてそう思う?」
少女はその言葉に、こう答えた。
「…………あゆりと、おなじだから」
「あゆり?」
「……うん、わたし。……あゆりもね、さみしいの」
ぎゅっと、ぬいぐるみを抱く腕に力を込める。
「おとーさん、いなくなっちゃった。おかーさんも、おしごとでかえってこないの」
「あゆりは、おうちでひとりぼっち」
そういった少女が、急に咳き込み出した。
彼はその小さな背中をさすってやった。
「…大丈夫か?」
問いつつも、目の前の少女がそう長く生きられないことはわかっていた。
「うん、うん、……いつもね、びょういんでもひとりだから」
さみしいのだと、そう言ったきり、少女はうつむいてしまった。
自分がさみしそうだと言った少女は。
その子自身が、さみしい少女だった。
銀色の彼は、その小さな少女の顔をあげさせると。
「へ?」
驚く少女の額に口づけた。
少し照れたように額を押さえる少女の小さい手を握り、彼は。
「なら、お前が寂しくないよう、俺がそばにいてやる。今のは、その印だ」
優しく微笑んだ。
俺が寂しいと、そう気づいてくれた少女。
俺を見つけてくれた、一人ぼっちの少女。
「………しるし?いっしょ?ほんと?」
「あぁ、本当だ。……そうだな、お前が大人になったら、迎えをよこそう。そうしたら、ずっと一緒だ」
今度は俺が、見つけてやろう。
「……おとなになったら?」
「あぁ。だから、今はお母さんと仲良くしておいで」
「………うん!やくそくね」
やっと満面の笑みを浮かべた少女は、自分の小指を彼に差し出した。
「約束だ」
彼も、その小指に自身の小指を絡め、指切りをした。
「愛由里ー?」
遠くで、女が子を呼ぶ声が聞こえる。
「おかーさんだ!」
「…ほら、もういけ」
元気に頷いた少女は、少し進んでから振り返り。
「おにーさん、おなまえは?」
「………朔夜」
「……さくや!やくそく!またね!」
そう言って、少女は可愛らしい笑みを浮かべ去っていった。
このときには、もう狐の彼は孤独ではなかった。
そして、自身の小指を見る度、未来で再会する少女に思いを馳せているのだった。