そして境内からやっとのことで出ると、私は足元の石に躓いて転んでしまった。
「っ!…………あ」
石に気が付かない…というか見えなかったのも無理はない。
いつの間にか、外は真っ暗。
かすかに降り注ぐ月明かりだけが、私を照らしていた。
「……お母さん、心配してるな…」
足が痛くて、心臓が痛くて。
ゆっくりと立ち上がると。
「っ、きゃっ!?」
足を何かに掴まれ、そのまま尻餅をついてしまう。
一瞬、またミケくんたちかと思ったけれど、それは。
真っ黒な腕に異常に長い爪だけが月明かりを受けて光る、不気味な冷たい手だった。
そしてその先には。
『…………オンナ………ニンゲン……』
腕と同じ、真っ黒な体。
ズルズルと腕だけで這ってくるそれは。
見たことも無い、禍々しい姿をしていた。
『オンナ………オレニモ…クワセロ……』
「ひっ!?」
突如後ろから腕をつかまれる。
私の腕を掴むのは、くらい中でもわかる、緑色に光る物体。
『イイニオイ……………』
「きゃあああああ!!!」
緑色の物体が、私の掴んでいる腕を、真っ赤なその舌で舐めあげた。
「は、離して!!!!」
『ウマソウ…………ニンゲン…ニンゲン…』
「誰か…誰か助けてっ!!!」
「…朔夜っ!!!」
とっさに叫んだ瞬間、私の横を何かがすごいスピードで過ぎ去った。
『ぐぇっ!?』
横から何かが潰れる音がして、悲鳴が聞こえた。
それが聞こえた瞬間、手足を掴んでいた手が離れる。
離れた黒いそれは、私から10mくらい離れたところで立っていた。
………腕だけで。
「っ…」
それは、足を持っていなかった。
異常に長い、筋肉質な腕。
頭があるべきところには、大きな目が一つ。
胴体はへその当たりでなくなっていた。
『オマエ……オレノカラダ…………キッタヤツ…』
一つ目が不気味にギョロりと動く。
動いたその先には。
「さ、くや…さま」
「………」
羽織を風にはためかせた朔夜様が、じっと一つ目を見据えていた。
そして彼の手には緑色の物体。
それはスライムのようなぶよぶよの塊で、実体を持っていなかった。
彼の唇が、少しつりあがる。
「………なんだ、死にぞこないが…今度こそ殺されに来たか?」
彼はその言葉と共に緑色の物体を握りつぶした。
『オマエノ………オマエノセイ………オレ…アシナイ………アルケナイ!!!』
そう言った一つ目は、またギョロりと目を動かした。
怒りに血走った目は血管が浮き出ていて、とてもおどろおどろしく見えた。
そして、その目が。
ギョロりと、私を見据えた。
『…ニンゲンクエバ………アルケ、ル』
「え?」
『ニンゲン………!』
一つ目は、血走った目をそのままに、私の元へすごいスピードで向かってきた。
「っ、きゃああああああああ!!!」