「わらわたちが使える、神様じゃ」
「かみ……………」
かみさま。
神様って、あの?
宮司さんとかじゃなくて?
まずい。
……………なんというか。
あった瞬間帰れなくなる気がする。
まぁもうなんか、狛犬が動き出すんだから神様がいたって驚きはしない。
いや驚いてるけど。
てか、本物?
というか、仮に神様だとして。
そんな簡単に神様に会わせていいの?
安くない?
神様安売りしてない?
戸惑う私の心境など知ったことではない彼等はずんずんと進んでいく。
そして境内に入ってしまった。
あぁ…。
入ってしまった。
「あの……私、帰らないと」
「そう言うでない。ほれ、もうすぐつくでの」
私の言葉に振り向くことなく答えたユラちゃんは鼻歌なんか歌って、とてもゴキゲンで。
ダメだ。
これは逃げられないパターンだ。
………ん?
逃げられない?
……………………まさか、私。
ひとつ思い当たってしまったことがある。
その考えに一瞬で顔から血の気が引いて。
背筋が冷たくなった。
もしかして私……………………。
この人たちに、生贄にされるんじゃ…。
神様に献上されるんじゃ………!?
人がこなさすぎて、ついに生贄をだそうとしているんじゃ…!?
死ぬ、いや。
もうどうせ一ヶ月後には死ぬんだけど。
でも………ここで死にたくない。
お母さんに会いたい…!!
1人泣きそうになっていると、ある部屋の前でミケくんたちが止まった。
「朔夜様。いらっしゃいますか?」
トキさんが中に向かって声をかける。
私はというと、死んでしまうかもとか、神様ってどんな格好なんだろうとか考えていた。
七福神とかだと、お腹が出た布袋さまとか、おっさんみたいな人がおおいけど…。
朔夜って、男なのかな?女?
あああ、わからない。
どうしよう、めっちゃガタイのいい怖い人だったら。
握りつぶされるかもしれない。
それだけは避けたい……!!
「あぁ。なんだ」
奥から、低い艶のある声が聞こえた。
凛とした、けれどどこか色気のある声。
その声を聞く限り、神様は男の人で、若い人なのかもと思った。
少なくとも、しわがれたおじいさんではない。
「客人が来まして…人です。ミケたちが世話になったようで」
「……ほぅ?………いいぞ、客人を入れろ」
「はい」
トキさんが1つお辞儀をして、ためらうことなくふすまを開く。
そしてユラちゃんが私の背中を押し、中に入れた。
皆も入ってくるのかと思えば、握っていた二つの手はいつの間にか離れ、廊下でトキさんたちと並んでいた。
「え?」
「では、ごゆっくり」
トキさんが微笑みながら目の前でふすまをピシャリとしめた。
「え、ちょ、っ!?」
………しんと静まり返る部屋。
この部屋には、私、と。
後ろにいるであろう神様の2人だけ。