左側のかけた月が爛々と輝く夜。


時々吹き付ける風が、鳥居にかかる木の枝を揺らしていた。






その鳥居をくぐった先、ボロボロと今にも崩れてしまいそうな境内。





そこに腰掛け、月を眺めている青年がいた。





月に照らされ銀色に光る長髪は床につき、しなやかな曲線を描き。


そしてその上、彼の頭には、狐か猫のような耳が風の音に反応しかすかに揺れていた。






彼はその身に美しい紫色の着物、その上には紅色の羽織をまとって。


風に吹かれ、さらさらと揺れる髪を後ろに払いながら、紫色の瞳を細めた。




そして持っていた煙管を口にくわえ、口からそれを離し、細く白い煙を吐いた。


「…………………退屈だ」


もう何年、何十年、いや、もしかしたら何百年もこうしてここにいるような気がする。



ここに人が来なくなって、もうどれくらい経つのか。




「誰でもいい」



誰でもいいから。




「……俺を、楽しませろ」



美しい低音で紡がれたその言葉は。





縋るような、助けを求めるような不思議な響きで。




風に運ばれ、夜空に消えた。













「……きつねさん」