春の乾いた風に、白い便箋はサワサワと音を立てて揺れる。

ハルと行ったパン屋や中華屋、そしてこの丘。文字を辿るごとに思い出すあの日、あの瞬間。

散り始めた桜の枝の間からは、吸い込まれるような青い空が見える。

もう、シャツ1枚でも寒くない。

まだ肌寒かったあの日。

シャツ1枚のハルを見て、寒くないのかと聞いた私。それが、私たちの最初の会話。

なんか、変なの。

考えてみればハルは、この世には存在しない、簡単に言うと幽霊みたいなもんだ。きっと寒さなんて感じていなかったに違いない。

「ハンカチ、返してもらえなかったな」

最後に会った日、雨にぬれてしまったハルに貸した水色の花柄ハンカチ。

「……ふふ」

自然に口から出た微笑みは、春の風に乗り、きっと君のもとへと届いているだろう。

『大好きだよ、うた』

そう締めくくられた手紙を、私は深く深呼吸をしながら畳み、封筒へとしまう。

封筒から零れてしまいそうなほどのハルの気持ちも、今の私ならばきっと受け入れられる。

だって一緒にいた時、君はずっと、笑っていたから。