学校にも家にも居場所がなくなってもう頑張れないと悟ったあの日、私はこの屋上に来た。

これで終わりにできると思った。

嫌な事も悲しい事も許せない事も、
全部全部捨てられると思ってた。


「隠してたわけじゃない。言う必要がなかったから言わなかっただけだ」

だから蒼井はずっとなんで屋上から落ちたか聞いても口を濁すだけだったんだ。落ちた、なんて曖昧な事を言って。


「それに言ったってお前は信じなかっただろ」

「……」

それは、そうだったかもしれないけど。

私が傷付かないようにとか気にしないようにとか、そんなこと考えてくれたかどうかは分からないけど、今はその優しさを受け止める余裕はない。

「じゃ、なんで蒼井も一緒に落ちたの?」
「……」

「いい加減答えてよ」

嘘や誤魔化しはもういらない。

私はただ真実が知りたいだけ。

蒼井は深いため息をついて頭を掻いた。そして私の横を通りすぎるとその足は屋上の手すりの前で止まった。


「………お前を助けようとした」

その瞬間、私達の間を風がすり抜けて枯れ葉が舞った。

「助けようと…した?なんで?名前も知らなかったんじゃないの?」

「条件反射じゃね?」

「……」

蒼井はまるで普通の事のようにサラリとした口調で言った。今もなんて事ない顔で景色を眺めているし何を考えてるのか分からない。