「オレ前から橋本さんの事好きだったんだよね」

校舎裏ではすでに茶番劇がはじまっていた。

バレないように草むらや物陰に隠れる野次馬達。誰かは笑いを必死に堪え、誰かはずっとスマホで動画を撮っている。


「橋本さんってよく見たら可愛いしミステリアスだしいいなって思ってた。オレ見た目で勘違いされやすいけど一途だし絶対大切にするから……だからオレと付き合って下さい!」

クスクスとみんな肩を震わせていた。

まるで加藤君は役者にでもなったつもりで演技をしている。よほど橋本さんを落とせる自信があるのか口元は緩みっぱなし。

こんな事になんの意味があるんだろう?

加藤君のわざとらしい演技は笑えるというより寒いし、見ていてとても不快だった。

橋本さんはずっと下を向いていて手をもじもじとさせていた。


「照れなくてもいいよ?俺は本気で………」

「ごめんなさい」

「え?」

遠くでもはっきりと聞こえたその声は確かに
〝ごめんなさい゛だった。

鳩が豆鉄砲を食ったようとはまさにこの事だ。
加藤君はきょとんとして開いた口が塞がらない。

「え?え?今なんて?」

「あなたの事よく知らないし……その、ごめんなさい…」

私は橋本さんを誉めたいほどスカッとしていた。

ほとんどがイエスに賭けたとか言ってたけどむしろなんで?って感じ。賭け事は抜きにしても加藤君みたいな人は全然魅力的じゃないしフラれて当然だよ。ざまーみろ。