「あれ例の蒼井翔也じゃん」

美保が気付いて足を止めた。

出来ればこのまま通りすぎたかった。だって蒼井との関係は話してないし、むしろ話したところで私も頭がオカシイ奴決定だよ。


「今日も英語の授業来なかっただろ?このままだと出席日数足りなくて留年になるぞ」

濱田先生の担当は英語。英語だけじゃなくて多分全教科ヤバいと思う。

「教室で授業受けたくないなら別の方法考えるし、テストだって違う部屋でひとりで受ける事もできるんだ。俺は誰も留年なんてして欲しくないし蒼井にも……」

濱田先生って本当にいい人だな……。同じ先生でも蒼井みたいな生徒を明らかに毛嫌いしてる人もいるのに。

「別に。ここで勉強とかしても意味ねーし」

どうやら蒼井には何も響かないみたいだけど。

そりゃそうだよね。ここが仮の世界なら勉強とかテストとか必死でやっても意味ないとは思うけど……それを先生に言っても通じないしダメじゃん。


「意味がない事はないだろう?留年して高校卒業できなかったら中卒になるんだぞ?そしたら将来にだって……」

「はっ。あんた本当にいい先生になったんだな。
気持ち悪いくらい」

蒼井の一言で廊下が一瞬ざわついた。

過去形の言葉も気になるけど問題は後者の方。学校で1番人気の濱田先生に気持ち悪いと言ったのは蒼井が初めてだろう。

「なにあれ」「先生かわいそう」「あんな奴に構わなくていいのに」

あちらこちらで非難の声が飛ぶ。

「なんでそんな口のききかたをするんだ?先生は本当に蒼井のことが心配で……」

隣にいる美保もかなり冷めた目で蒼井を見ていた。


「心配とかしなくていいよ。俺あんたのこと嫌いだし」

蒼井はとどめの一言を言ってそのまま廊下を歩き去っていった。