「焦るだろ？こんな所に人が立ってると」

吹き抜ける風が蒼井の髪を揺らす。もしバランスを崩したら怪我では済まないのにその口元がニヤついてるから腹がたつ。

「いいからとりあえずこっちに来なよ」

「……」

「ちょっと聞いてるの？」

３階建の校舎は屋上も含めると約１１～１２メートルはある。それをあんな場所から、しかも考えるように下を見てるもんだから変な想像をしてしまう。

「ここから落ちたら死ぬと思う？」

「当たり前じゃん。いいから早く……」

「……だよな」

何故かその〝だよな゛の言い方が引っ掛かった。

「なに、考えてるの？」

「同じところから落ちたら戻れるかなって」

同じところ？戻れる？またその話し？

いい加減にして欲しいけど蒼井の背中には決意のようなものが感じられて、これは本気かもしれない。

「な、なに言ってんの。頭おかしいんじゃないの？」

蒼井の言ってる事は全部虚言で今でもヤバい奴だって思ってる。………でも嘘でこんな事するはずがない。

なんのメリットもないし私が来なければ本当にやってたと思う。

私が死んだ？蒼井と屋上から落ちて？
おまけにここは私がいた世界じゃない？

そんなの信じるわけない。信じるわけないけど、


「あんたの言ってる事、本当なの？」

そう聞くと蒼井はやっとこっちを見て「本当だよ」とオウム返しに言った。

そのムカつく顔は光で見えなかったけど、その中に蒼井ではなく別の人がいた気がして、右目から一筋涙が流れた理由は分からない。

今は眩しさのせいだと思う事にする。