最後に勢い良く鞄のチャックを閉め、鞄とスーツを数着ハンガーのまま肩に掛けた。
このまま部屋の外に出ても、奏汰に捕まるだけだろう。
どうしよう・・・・・・


携帯が振動する。



「はい。深月です。」
『俺だ。桐島だ。』
「部長・・・・」


桐島部長の声を聞いただけで、涙が出て来る。


『どうした?何かあったのか?』
「っうう・・・・」
『泣いてる・・・のか?』
「・・・・・・・・・・」
『すぐ行く。待っとけ。』



桐島部長が来てくれる。
会いたい・・・私の心は、この3日で、たった3日で桐島部長を求めていた。



10分もしない間にエントランスのチャイムが鳴った。


『桐島だ。』
「部長・・・玄関前に奏汰が・・・幼馴染が居ます・・・きっと、部長に酷いことするかも・・・」
『構わない。ここを早く開けろ。』


エントランスを開け、数分で桐島部長はここまで来るだろう。
桐島部長と対峙した奏汰は、どうするんだろう?


玄関まで荷物を抱えて出る。
そこに奏汰が居ても、桐島部長を私が迎えたい。
思い切って、そのドアを開いた。



目に入って来た光景は、対峙する奏汰と桐島部長だった。


「楓・・・」
「深月。」


奏汰を押し退け、桐島部長へと駆け出す。
掴まれる左腕。


「離してっ!!!」
「楓っ!!!!」



奏汰から腕を振り払い、踵を翻す。
桐島部長に伸ばした手が、桐島部長に届いた刹那、桐島部長にその手をグッと握られ、その逞しい胸の中に引き込まれた。