渡された膨大な資料に目を通す。
膨大な量の資料に商談までに間に合うかと心配していたら、私の後ろから桐島部長の声がした。


「今日は俺の横に居さえすればいい。」


その言葉に胸が疼いた。




「失礼します。」


第一会議室にお茶と、資料を持ち込み、桐島部長の横に座る。



私が席に座ったのを合図に、桐島部長が私をクライアントに紹介する。


「今回、私と一緒に担当させて頂きます深月楓です。」
「深月です。よろしくお願いします。」


名刺を差し出し、深くお辞儀をする。


商談は桐島部長が言った通りに、私はただ彼の横に居るだけで、滞りなく進んだ。


クライアントの帰り際、深くお辞儀をし、会議室から見送る。
素早く身体を起こし、「下までお送りします。」と、桐島部長に声を掛け、さらに、「湯呑はそのままで。」と言い、クライアントの後を追った。



クライアントをエントランスまで見送り、会議室に戻ると、その大きな後姿がまだそこにあった。



「桐島部長・・・」


そう声を掛け、会議室に入れば、


「あぁ、深月か。」


と、資料を片手に立ち上がった。
私を待っててくれたのか、と、お礼を言おうと、頭を下げようとしたその刹那、私の背中は壁に押し付けられていた。


バサバサと落ちる資料。
昨日同様、顎をグイと持ち上げられ、目の前に迫る、綺麗な桐島部長の顔。


後少しで桐島部長の唇が私のそれに重なると思った瞬間、



「目、閉じろよ。」


と唇が触れ合うその位置で囁かれた。
桐島部長の吐息が私の唇にかかる。


そのまま私から離れる熱。


桐島部長は、そのままキスすることなく、会議室を後にした。


キス、されたかった・・・・・・