クリスマスプレゼントは王子さま




「……………」


トナカイのぬいぐるみのレン王子は、握りしめた箸で掴んだ酢の物を見つめる。


(お願い……食べて)


私は、祈る様に彼を見守るしかない。


彼が……レン王子が酸っぱい物が苦手な理由。それは既にアベルさんからちらりと聞いたけれど。現代日本に生きる私たちからすれば想像できない悲しいものだった。


“レンは……あいつはね、三歳のころ母親が目の前で殺されたんだ。自分を狙った奴らの手によってね。
幸いあいつは母親の機転で逃げ延びたけれど……それから2年近く一人で生きなきゃならなかったんだ。国内でも屈指の治安の悪い町でね”


“どんなに腐った食べ物でも口にしないと生きていけなかった。こんな言い方だと気分が悪くなるかもしれないけど、腐った食べ物は大概酸っぱいだろ?
あいつはそれがトラウマになってんだ。食べると浮浪児だった頃の辛さを思い出すからだろうな”


ピクルスが大嫌いだとレン王子が言い切った日。アベルさんに訊いたら、翌日に返ってきた答えがそうだった。


“レンはマスターが保護するまで、野生児のように生きてきた。ガキなのに何度も命を狙われて……5つで誰も信用しない子どもになってたんだ”


“だから、あいつは本当は僕たちだって信頼なんてしてない。あいつにとって他人なんて、自分の敵かそれ以外の認識しかないんだ”