「こら、海!食べ過ぎだおまえは」
「そういう翼兄ちゃんだって唐揚げ一個多いじゃんか!」
わいわいと賑やかな食事風景の中、私のお向かいではずっと沈黙している人がいた。
「……………」
レン王子は食器と箸を前に黙ったまま。もしかしてお箸が苦手とか? とスプーンとフォークを用意して置くと、なぜか箸を取った。
着ぐるみだから握り箸になってしまっているけれど、今ここでいちいち注意するのも憚られる。せっかく食べて貰えるのに……。
アベルさんは遠慮なくばくばく食べてるけれど、レン王子は開始から30分経っても何も口にしてない。やっと食べてくれるかな、とほっとしつつも彼の箸の行方が気になった。
メニューはじゃがいもとワカメのお味噌汁、卵焼き、ほうれん草のおひたし、鶏の唐揚げ、キュウリとワカメとタコの酢の物。あとは白ご飯。
キュウリを見た瞬間に酢の物が浮かんだのは……レン王子がピクルスを苦手としていたから。
普通の三杯酢だと酸っぱいけれど、酸っぱさが不得手な弟たちの為にアレンジしたレシピで作ったもの。
レン王子に食べて欲しい……そう願った酢の物に、迷わず彼は箸をつけた。



