着ぐるみを着ている以上、ぬくもりは直には伝わらない。
だけど、私が今ここにいる理由が彼を心配しているからだということは、頭での理解ではなく心で感じて欲しかった。
おばあちゃんに言われた通りに、頭であれこれ考え過ぎると難しくなってしまう。
私はただ、レン王子に知って欲しかった。自分がどうでもいい存在ではないのだと。
そして、あなただってしあわせになっていいのだと。
「ね、レン王子……よかったら一緒にご飯を食べませんか?」
私がそう提案すると、レン王子の指がピクリと動く。
「こんな暗い場所で一人でいたって気が滅入るばかりですから……みんながあなたとお話ししたり遊びたいって言ってます。ですから、ね?」
“お腹が空いた人間はろくなことを考えない”と房江おばあちゃんは言ってた。なら、お腹いっぱいになればまだマシなはず。
「さ、行きましょう! 早くしないと冷めちゃいますから」
私は重ねた手を握りしめたまま、彼の手を引いて椅子から立ち上がらせる。着ぐるみのレン王子は無言で私のされるがままで、部屋から出ても大人しく着いてきた。その様子に侍従長のアベルさんも目を丸くする。
「あらら、こりゃ珍しいものを見た」
「よかったらアベルさんも夕食をご一緒に。妹がお手製の卵焼きを食べて欲しいそうです」
「風花ちゃんが? そりゃ光栄だ。喜んでご一緒させていただくよ」
アベルさんは上機嫌で……サンタの着ぐるみに着替えた。



