「そうかい……」
なるべくはしょって話したつもりだけど、涙声を悟られないために途切れ途切れになって。思ったより長くなってしまってた。
「どうしよう……おばあちゃん。私……私はこれ以上王子を傷つけたくなかったのに。彼が辛い思いや悲しい思いをするなんて……嫌なのに」
やっとそれだけ言葉を振り絞ると、もう耐えきれなくてタオルで顔を隠した。隅に寄って声を押し殺しながら涙を流していると、房江おばあちゃんがぽつりと呟く。
「……人間てのは案外単純にできてるものだよ。あれこれ難しく考えるとややこしくなって、本質が見えなくなる。もっと肩の力を抜きなさい。答えなどとっくに出てるじゃないか」
「……答え……?」
「ああ……翠ちゃんはその王子をとても大切に想っている。
心から大切にしたいと想う。その気持ちだけで充分じゃなければ何を返せというんだね。
あんたがその気持ちを素直に伝えれば済む話だよ」
「気持ちを……伝える」
房江おばあちゃんがくれたアドバイスは、予想外ではあったけれど。スッと胸に落ちてきてどこか納得できた。
「男女の間にあるのは何も色恋沙汰だけでない。あんたみたいな気持ちだってありだ。伝えるだけでも損はないと思うから、頑張って誘っておいで」
夕食がほぼ出来上がる頃合いを見計らい、おばあちゃんに部屋から追い出された。
“ちゃんとお誘いして連れてくるんだよ”なんて意地悪な難題を出されて途方に暮れたけど。
これくらい、やれなくてどうするの? と気合いを入れて下の階に向かうエレベーターに乗り込んだ。



