すると、トナカイからポソッと声が聞こえた。
「……大切なものは全て持っていけ」
「え?」
「無くしたら困るモノは全て身に付けろ」
着ぐるみの布越しだからか、くぐもった低い声。なぜそんなふうに言うか疑問に思いながらも、素直に頷いておいた。
「は、はい。翼、貴重品はちゃんとみんなに持たせてね」
「わかった。姉ちゃんはばあちゃんを連れてきてくれな」
「うん」
このアパートは家賃が安いゆえにお風呂がない。だから、週に何度か近場の銭湯に行く習慣があって。おばあちゃんも一緒にお風呂が定番になってた。
「さ、おばあちゃん。足元に気をつけてね」
念のためおばあちゃんの貴重品を風呂敷に入れておいた。トナカイから感じる言い知れない不安に急き立てられるように。
……それでもさすがにトナカイとサンタさんの着ぐるみを連れて歩くと、何かの珍妙なイベントかと誤解されそうだけど。
私へのクリスマスケーキの配送バイトが終わったのか、サンタさんもトナカイも素直に銭湯に着いてきたのがおかしかった。



