「んぐぐぐ……固い!」
どういう心境の変化か、レン王子は無抵抗の姿勢を見せたから。これ幸いと彼の服を脱がせにかかる。
ジャケットは直ぐに脱がせられたけど、どうしてかワイシャツはボタンが固くてなかなか外せない。
すると、ため息が上から降ってきた。
「なんで、そんなのにそれだけ必死になる?」
「そんなのって……そんなの、じゃありません! ケガをしたらちゃんと手当てをしないといけませんから」
「なんで? 別にすぐ死ぬわけじゃない。だったら時間の無駄だろ。第一……オレはガキの頃からこれくらいのケガは当たり前だった。いちいち気にしてたら生きちゃいられない」
一瞬、耳を疑ってレン王子を見上げたけど。彼は――まるでガラスのような、生気がない瞳を私に向けていた。
私に目を向けてはいても、瞳に私を映していても、彼は私を……ううん。私だけでなく何も見ていない――。
レン王子は目の前にあるすべてを意味のあるものや存在として、認識すらしていないんだ。
(ダメだよ……そんなの!)
私は、それでも意地で彼のシャツのボタンを外す。固くて爪が剥がれそうなほど痛くなっても、私はムキになって作業を続けた。
「だったら、今から気にして! あなたが気にしないんだったら、私が気にする。これからも、あなたが治療を受けないなら私がこうして突撃するから。覚悟して!!」
泣くな、と自分を叱りながら滲む涙を堪える。
「あなた自身は、自分がどうでもよくても。違う人がそう思わない。少なくとも私はそうだから!」



