「ようこそ、いらっしゃいました。ご訪問を歓迎致します」
「こちらこそ、歓迎感謝致します」
見たことがない愛想のいい笑顔……は? あの人だれ? といちいち思うのも疲れました。
ちょっと小太りのスーツ姿の男性は、どっかの福祉法人の偉いひと。レン王子が先進のシステムを取り入れた福祉施設の視察、という名目で訪問したから。
ちなみに、お昼をちょっと過ぎたくらいの時間だけど、本日の公務5件目。件数だけだったら大したことないけど、車の移動の最中にも公務というか政務があるらしく、侍従長のアベルさんとずっと話したりパソコンを弄ってた。
で。レン王子は福祉関連施設には寄付もするらしい。だからか、余計に厚遇されて愛想よく振る舞われる訳だ。
レン王子は私に対する時と180度違い、にこやかに挨拶もするし談笑もするし必要なら笑い声すら上げる。最初は二重人格! と心の中で憤ってた私も、あまりの忙しさにどうでもよくなった。
本当は多忙なレン王子には侍従長であるアベルさんの他に私設秘書官がついていたみたいだけど、どうしてかレン王子がクビにしたから手伝いが必要な事態に陥ってたということ。
(だから私に声をかけたってわけ? 偽の恋人とか言いながら、実際は秘書の真似事とか……ま、いろんな経験を積めるのは悪くないからいいけど)
今後の生活の為に収入アップをはかりたくて、なにか資格を取ろうとは考えてた。やっぱり中卒で何の資格も持たないと仕事も限られてくるから、勉強をして資格を得て。少しは余裕があるようにしないと。
来春翼が中学に入るから制服代や何やら必要になる。私はダメだったけど、みんなは高校だけでも行かせたい。
(そのためには私が頑張らないといけないもんね)



