(いけない。人前で涙は流さないって……決めたのに)
両親を亡くして家族を守ろうと決めたあの時、弟達を心配させないために人前では泣かないと自分に誓った。
私は不覚にも一度レン王子の前で泣いたことがあるから、これ以上涙を見せたくない、と目元をゴシゴシと手のひらで拭った。
けれど、やっぱり傷についてスルーは難しい。
だって、まだ真新しい治りかけの傷すら何の手当てもせずに直に服を着ているんだから。不衛生なことこの上ない。
そんなぞんざいな扱いだと、治るものも治らないよ。
触れないのがマナーかもしれないけれど、どうしても訊いてみたかった。
「……あの、すみません……服を着る前に傷の手当てはされないんですか?」
「問題ない」
キッパリと返されたけれど、そこには私を拒絶するような響きがあって。どうしてかツキンと胸に痛みが走る。
(やっぱり……私の心配なんてレン王子からすれば余計なお世話だよね。だけど……何だか目が離せない。どうしてか自分にもわからないけど……すごく危なかっしく感じる)
以前は人形のように人間味がないと思えたけど、今は別の意味で心配。彼は……レン王子は自分の命に執着がないように感じる。
まるで……自分がどうでもいいみたいな。
「オレは今から公務があるが、あんたは好きにしろ。なにかあればアベルに言え」
白いシャツと細身の黒のスラックスを着たレン王子にそう言われたけど、顔を冷やすために氷をビニール袋に詰めた私は彼を見上げた。
「いいえ、私は今日あなたと一緒に行動してください、とアベルさんに言われていますから。ご迷惑かもしれませんがご一緒させていただきます」



