ズキン、と胸が痛んだ。
弟の海なんてちょっとしたケガをしても痛がって泣くのに。私だってプレス機で指先ケガをした時にはものすごく痛かった。
でも、レン王子のケガは背中だけで見てもそれ以上のものばかり。
(痛かった……だろうな。だけど……この人は泣けたの? 泣くことができたの?)
今の、人間味に薄い彼を見る限りは涙を流す姿が想像できない。私に恋人になれと言ってきた時も、ただその存在が必要なだけだからと告げてきた。
私も、ただ独身で女という点で必要なだけで。相手は誰でも良いとまで言われた。
“人間を記号で見てる”――あの時はただ反発を覚えただけだけど。
傷で埋めつくされた背中を見たら、そうならざるを得ないんだと。そう納得してしまう。
王子という身分があるのにも関わらず、あれだけのケガを負い続けるなんて。明らかに異常だ。この人は現実にに命を狙われているんだと、そうはっきりと確信することができた。
もしかすると……着ぐるみを着ていたのは。暗殺対策? そう思えば不自然でない。
昨日着ぐるみであれだけ動けたのも、武術に長けていたのも。今までの経験からなんだろうな。
それは……なんだかとてもかなしい。そう思えて、勝手に涙がこぼれ落ちた。



