朝食の席にレン王子はいなかった。
彼は別の部屋で一人で休んでいて、毎朝一人で起きて一人で全てを済ませて出てくるらしい。
(そういえば……3歳まではお母さんと下町で暮らしてたって言ってたっけ)
なぜか「あ、クリーニングした服渡すの忘れた。レンに届けてあげて~」とアベルさんに紙袋を渡されたから、仕方なく下の階の……って?
アベルさんが書いたメモにある部屋番号を見て目を疑った。
「……303号室……これってシングルルームじゃ……」
高級ホテルだとシングルルーム自体の設定はない場合が多いらしいけど、このホテルは珍しく一人でも泊まり易くとシングルルームがある。それが三階に並んでる部屋だ……とアベルさんに教えてもらってた。
303号室の前には護衛を務める皐月さんの姿があり、「おはようございます」と頭を下げると、なぜか無言なまま会釈をしてきた。
「皐月、失礼でしょう。ちゃんと挨拶くらいしなさい」
「別に、いいでしょう。レン王子の本当の恋人ではないんだから」
間宮さんの注意を受けても、皐月さんは不機嫌さも露に、舌打ちまでしてきた。
「どうぞ、勝手に入ってくださいよ」
投げやりな態度でドアを開いた彼に、間宮さんが突っかかった。なぜ、気に入らないかと言えば明白だ。
“レン王子の本当の恋人ではないんだから”――。
(そう、私は彼の本当の恋人じゃない。それはわかってる)
複雑な気持ちのまま、ドアをそっと閉じて部屋を見る。
シングルとは言うものの、たぶん普通のホテルよりは贅沢な造りだった。



