クリスマスプレゼントは王子さま





築50年以上経つ木造のアパートには、いろんな事情を持つ人が住んでる。隣に住む70過ぎの房江(ふさえ)さんもその一人だった。

「おばあちゃん、はい。少しずつ食べてね」

「ああ……いつもすまないねぇ」


今でこそ病弱で寝たり起きたりを繰り返す房江さんだけど、弟達が小さな頃はお世話になってた。彼女がまだ保育園に預けられ無かった年齢の弟達を引き受けてくれたから、私もまる1日働くことができたんだ。


それだけでなく、両親を亡くして途方に暮れた私の代わりにいろんな手配をして、励ましてくれた。血なんて一切繋がって無いのに、本当のおばあちゃん以上にお世話をしてくれたんだ。その恩は何をしたって返しきれない。


「そういえば、もうすぐクリスマスだね。翠ちゃんは一緒に過ごすいい人は居ないのかい?」


たぶん、こうして訊いてくるのは房江おばあちゃんなりに気を使って。もしも私に恋人がいたら、クリスマスは弟達の面倒を見てくれるつもりだろうけど。


「う~ん……良いかなって言う人はいたけど、残念ながら恋人持ちだったから。それに、クリスマスはまだ家族で過ごしたいかな」


何とか明るい顔が作れてるといい、と思いながらおばあちゃんに笑って見せた。


恋人なんて、夢のまた夢。今は生活するだけで精一杯。


20時から24時まで働くコンビニで検品作業をしながら、そっと息を吐いた。