「あ……」
思わず足を止めてしまったのは、駅前通りにある有名なパン屋さんの前で。
アルバイトなのか着ぐるみのサンタさんとトナカイがチラシを配っていて。そのチラシに“クリスマスケーキプレゼントキャンペーン”という文字があったから。
チラシにズラリと並んだクリスマスケーキの写真。パリに修行に行った経験があるパティシエが作る芸術品の様なそれらは、到底手が出るお値段でなくて。それでもいつかはと憧れてきた。
「よかったら応募してみんかのぅ?」
ハッと顔を上げれば、いつの間にかサンタさんが私の前に立っていた。しわがれた低い声は年齢を重ねたおじいちゃんのもので、若い男性でないと少しだけほっとする。
「あ……あの。クリスマスケーキプレゼントというものは……どうやって応募するのですか?」
「簡単なことじゃ。それ、そこにツリーがあるじゃろ。そこに願いを書けばいいだけじゃ」
サンタさんが指差した先にあるツリーには、既にいくつかの短冊が結んであった。七夕みたい……と可笑しくなったけど、ダメ元で短冊に願いを書いた。
“弟達みんながクリスマスケーキを食べられますように”――と。
(ごめんね、みんな。こんなことしか願えないお姉ちゃんで)
毎年、今年こそはホールのクリスマスケーキを用意したいと思っても、経済的な事情でいつもいつもできなくて。弟たちをがっかりさせてきた。
今年も……きっとダメだ。
残金が数百円しかない財布を思いながら、急に吹いてきた冷たい風に身をすくませた。



