クヴェル王国……
また出てきた知らない国名。
それに、何よりも。
最初の“レン”以外ろくに聞き取れなかった仰々しい名前。それから……その身分がにわかには信じられない。
「王子さま……? あなたが」
「そうだ」
人形のように整い過ぎた唇から紡がれるのは流暢な日本語。けれど、彼を日本人と決めつけるには瞳があまりにも異なっていて。ましてや、彫りの深く西洋的な美貌を前にしたら黙るしかない。
王子……レンと呼ばれるこの人が。
ハッと気がつくと、いつの間にか黒服の護衛らしい人が何人か隅に控えていた。気配なんてまったく感じなかったし、もちろん物音すら聞こえなくて。
こんな一流ホテルに滞在できる経済力と、プロの護衛を何人もつけられる地位。そして大使館に繋ぎをつけられる身分。それだけの証拠を示されれば、嫌にも認めざるを得ない。
彼が王子という高貴な身分なのだということを。
何があっても着ぐるみを脱がなかったことも、顔を晒したく無かったとの理由なら納得がいく。
けれど、どうして? という疑問は拭いきれない。
「顔を出したくなかったのなら、別の変装をしてもよかったのでは? トナカイやサンタなんて逆に目立ってたような」
「この時期にサンタはどこにでもいるからな」
私の疑問をバッサリと切り捨てたレン……王子。さいですか、とむくれた私に。彼はとんでもない提案をしてきた。



