「心配要らないと言ったはずだ」
トナカイのままの謎の人は私の言葉なんて馬耳東風と言った様子で。まったくとりあってくれない。
「心配するなと言われても無理です。だいたい顔も出さない、名前も名乗らないあなたのどこに信頼するに足る根拠があるのですか!?このブレスレットだって……ただのオモチャにしか見えません」
私は、手首からブレスレットを抜いてトナカイに返そうとしたけど。トナカイはそれを押し留める。
「確かにそうだ。あんたの言うことは的を射ている」
トナカイはぬいぐるみの顔に両手を添えると、ゆっくりと被り物を持ち上げていく。
そして、現れた顔に――一瞬息を飲んだ。
サラリと流れた漆黒の髪。やや色が濃い肌。整った顔立ちは今まで見たどんな男性よりも綺麗で、見とれてしまっていても無理はないと思う。
けれど……一番目を奪われたのは、琥珀色(アンバー)の瞳。
意志が強そうな眉の下にある切れ長の瞳は、芸術品か宝石かと言えそうな透明感があって。それの双眼が私を見つめて、やっと我に返ることができた。
「オレは、レン·アーベント·フォン·クヴェル·フルューゲル。ドイツに接するクヴェル王国の第二王子だ」



