規制線が張られた先にあった木造のアパートは、見るも無惨に焼け落ちていた。
まだあちこち出火しているのか、消防車からの放水が見える。それでも焼けてしまったものは戻らない。
覚悟はしていたつもりだけど……頭が真っ白になるほどのショックを受けた。
車から降りてまだ煙が昇るアパートに近寄ろうとすると、年若い警察官に止められた。
「君、近寄らないで! まだ完全には鎮火していない。危険だから下がってなさい」
「翼は? あの……小学生の弟が先に来たはずです。見ていませんか?」
「自分たちが来たときはいなかったよ。さあ、下がってなさい」
警察官に押されるように遠ざけられる。弟が心配で(もしかすると火事に巻き込まれたの?)と激しい後悔が胸を苛む。
(翼……お願い! どうか無事でいて)
祈るようにアパートの方を見守っていると。ほどなく弟の元気な姿が見えて、思わず膝から力が抜けその場で座り込んだ。
「ごめん、姉ちゃん。心配させて。兄ちゃんのコネで近づける範囲でアパートの確認をさせてもらってたんだ」
あっけらかんと笑う翼は、全然怪我も汚れもなくて。ほっとした私はコツンと弟を小突いた。
「こら! あんまり無茶しない。それで……どうだった?」
「ん……残念だけどほとんど焼けちゃってる。みんな原型がわかんないくらいだったから……」
「……そっか」
やっぱり、と思うしかない。あれだけ派手に燃えていて残っている方が奇跡に近い。
それじゃあ仕方ない、近くのホテルに……とその話をしようとした時。トナカイがポツリと呟いた。



