トナカイは空いた方の私の手を取ると、手首に何かを填めた。銀色に光るシンプルなブレスレット。100均にも売っていそうなそれをまじまじと見ていると、トナカイがとんでもないことを口にした。
「心配ならこれを預ける。疑うならば、これを身につけたまま東京にある大使館に行け」
「大使館?」
「クヴェル王国の駐在大使であるボーク伯にその腕輪見せろ。それだけでオレのすべてが証明できる」
クヴェル王国? どこかで聞いた憶えがあるけれど、どこでだったか。と首を捻っていると、おばあちゃんがトンと背中を叩いてきた。
「……大丈夫だよ。きっと彼なら信頼できる。お言葉に甘えて車に乗せていただこうかねえ」
何故だか急に房江おばあちゃんがにっこりと笑って車に乗り込むものだから、巨大な?マークを浮かべながらおばあちゃんの後に続いた。
よくよく眺めれば、車は普通の乗用車でなくて。運転席の他にゲスト用の席が何列もあり内装も上質な、かなりの高級車だった。あいにく車には縁が無いから名前なんて出てこないほど高価そうな。
「二人を迎えに行け」
トナカイのままの、レンと呼ばれた謎の人は運転手にそう命じる。ほとんど音もなく発車した車は静かに進み、間もなくアパートのそばに到着した。



