トナカイのぬいぐるみを着た見知らぬ人と一緒に居て、不安でたまらないけれど。今は自分以外に大人がそばにいてくれることが、ほんの少しだけ心強い。
「翠ちゃん、大丈夫かい?」
「おばあちゃんこそ、あんまり体を冷やしちゃダメだよ。風避けにどこかのお店に入っておいて」
杖を着いた房江おばあちゃんにまで心配させてしまうなんて情けない。しっかりしろ! と自分自身を叱りつけた。
「大丈夫! 今日はバイト代が出たてだから。もしアパートがなくなっても、今夜の宿くらいは何とかなるし」
コンビニのアルバイト代の給料日が外食の日だから、幸い財布にはある程度のお金が入ってる。
(今夜は近場の安いホテルに泊まって……でも、その後はどうしよう)
無理をすれば家族と房江おばあちゃん、裕くんと美麗ちゃんのホテル代位は何とかなる。だけど、その後は?
頼れる親戚なんて、お母さん達の葬儀で居ないと判った。幼い子どもを三人も抱えたまだ15歳の女の子を引き受ける大人なんて、一人もいなくて。子どもは全員施設に預けて、私には“中学を出たなら働いて自活しろ”という人ばかりだった。
房江おばあちゃんが“ワシが保護者がわりになるし助けるよ。だから頑張りなさい。家族は別れて暮らしちゃいかんよ”と励ましてくれて。言葉通りにパートで出てまで私たちを援助し手助けしてくれたんだ。
……それを思うと、今。こうして無事に居られるだけでもマシだ。
私にはまだ仕事がある。くよくよしてたって仕方ない。もしも本当に火事なら、今日はホテルに泊まってからゆっくり考えよう。



