「おいしかったね」
「うん、おいしかった」
みんなでしあわせ気分で歩いた帰り道。
今日は夜のバイトも休みだし、ゆっくりしようかな……と考えていたのだけど。
アパートに近づくにつれ、何だか周りが異様な雰囲気だと気づいた。
次々と近づく消防車のサイレン音と、昼のように明るく見える空。行く手に上がる黒い煙に増えてく人だかり。嫌な予感を抱くには十分で、思わず駆け出そうとする私を、翼がひき止めた。
「姉ちゃんはここでみんなと一緒にいて! 何があったか俺が確認してくる」
「で、でも……翼だってまだ小学生でしょ。私は大人なんだから……私が」
「そんなに震えてて、ムリすんなよ。俺だって長男だし来年には中学に上がるんだから。いいからここにいろって」
な? と翼がポンと肩を叩く。
翼は知ってるんだ。お母さんが事故の時の火事で亡くなったことを。だから……こうして情けない姉の代わりにしっかりと成長してくれた。
「ごめん……ごめんね、翼」
「いいって。じゃあ行ってくる」
「なら、僕もいきますよ」
聞き慣れない声に、え? と振り向けば。サンタさんが立ってた。
「一人より二人でしょう。それに、一応僕も大人ですから」
染みだらけのつけ髭を取り去った人は……まだ20そこそこの若い男性で。ふわふわの栗色の癖っ毛の可愛らしい顔立ち。だけど、確かに力強いラインは成人男性ということを示していた。
「レンも、依存はありませんね?」
サンタさんの着ぐるみをきた男性は、トナカイに向けて問いかけた。



