ガシャン、ガシャンと金属同士が触れ合う音。耳障りなそれは今では慣れたもので、集中しながら機械を操作する。

あと少し……細心の注意を払いながら形成のタイミングを計りレバーを押せば、思い通りの形に出来上がり。ほっと息を吐くと、お疲れさまと声をかけられた。

「翠(みどり)ちゃん、今日はもう上がりなさい。弟くん達が腹を空かして待ってるだろ?」

働く町工場(まちこうば)を経営する社長の奥さんである幸子(さちこ)さんが、肩をポンと叩いて帰宅を促してくれる。工場の時計を見ればいつの間にか夕方6時過ぎてた。


「す、すいません! お言葉に甘えてお先に上がらせてもらいますね」


慌てて幸子さんに頭を下げると、彼女は朗らかに笑って肩を叩いてくれた。


「いいんだよ。あんただって中学を出てこの10年近く、弟くん達を女手一つで育ててきたんだろ。あたしらができることは少ないけどさ、なにか困ったことがあれば遠慮なく相談しとくれよ?」

「もう十分過ぎるほどご親切を頂いてますから。ありがとうございます」


感謝の気持ちを込めてペコリと頭を下げ、挨拶をしてから帰宅の支度をするためにロッカールームに飛び込んだ。