ここは、閑静な住宅街にひっそりと佇む7階建てのマンションである。
広さは1LDK、各階の角の部屋だけが2LDKという、まあよくある構造だ。
1人暮らしの住人もいれば、家族で住んでいる人もいて、賃貸マンションのため入れ替わりも激しかった。
私、星野ゆりは、このマンションの3階の奥から2番目、つまり角部屋の1つ手前の309号室に部屋を借りている。
ここでの暮らしを、私は割と気に入っていた。
セキュリティーはしっかりしているし、入り口からすぐのエントランスの奥にはちょっとした雑談スペースのようなものがあり、テーブルとソファーがいくつか置かれている。各階のエレベーターホールには、手入れの行き届いた植物が置いてあり、それは季節ごとに種類を変えた。
真新しくて住みやすい割には、家賃もそこまで高くない。OL3年目の私が無理なく払える程度だ。
その代わりに、最寄りの駅からは徒歩15分ほど距離があるが、慣れてしまえばたいした距離ではない。
そう、私はここでの1人暮らしを気に入っていた。
いわば自分の城、好きなようにレイアウトした部屋。それはなんとも言い難い快適さだった。
ある日突然、隣にあの人が引っ越してくるまでは。